驚愕!透明なる幻影の言語をたずねてパート2

ことばの力をたずねながら、主に近・現代詩の旅にでたい~時には道を外れながら

非人称の夏

むろん死後にも悩みはつきまとう
渡し船などはみえず
幻の夏の砂浜で、誰かのよぶ声がするが
水先案内の超老人もみえず
現世にひきかえすわけにもいかない
(誰かが石の頭で釘を打つ…この世の別れに音も凍えていたか)
比喩のようにふりかえる
あなたに対するつよがりは
あの夏の終わりからはじまっていた
いわゆる運命的な無言の戦いを強いられて
駆けのぼる水の階段をふみはずし
激しく海面に叩きつけられる
(そうだ。いま、永劫にわたってだまされはじめるのだ)*
けれども、
奇妙に明るい死後の水府へいざなう
もうひとりのぼくを浸蝕する、日本海沿岸
非人称の波間で
風にゆれる縄梯子の罠にはみむきもせず
すべてを無意識のせいにして待つことにする
狡猾な現世に背をむけた
妙なる調べに涙をぬぐいながら
(哄笑の波に晒されていた…空想する時空の旅に終わりはない)

            

  *埴谷雄高『闇のなかの黒い馬』の「《私〉のいない夢」から引用。

悲鳴

はっときずくと
安楽椅子にもたれたまま
私にもどる
一瞬の闇、いかにも
甘い記憶が拭い去られるとは信じがたい
無言の時の欠落に
魅入られていた
くらくらするような喪失感に
どことなく
酔いしれていたわけではなかった


部屋の色も匂いも
かわりもなく
このまま向こう側の
見えない意味の漂流という
観念にあまえながら
見ようとする空しい意識の切迫に
切なさを滲ませて
おそらく無駄な空気感を突き抜けてく
ここにはいない人のことが
よみがえるのだろう


瞬間の
まぶしい午後のひかりのなかで
おそらく死の儀式が
ひっそりとゆきすぎるのを
みおくるために
おきあがろうとする
異色な彼の疲れ切ったゆらめきは
影もしらない
反目する安楽椅子に抱かれたままの恐怖、闇の手か?
青ざめた悲鳴が天井を走る

 

 

 

影の爪 (現代詩)

その影は
人の重さを忠実に
支え、
なぞり、
自らの存在は主張しない
むろん、影はいのちの明暗を
あばきたてること以前に
見えないものの
ありかを焼きつけてはなさない

 


その影があって息づいている
世界の単純な仕組みは
なにより悲鳴の的になりやすく
あえて見ない、
見ようとしても見えない影の
悲哀を色濃くうつす

 


夏の影、
灼熱の車道
おもいがけない遠い暴動の
影の乱調か
全世界のはての果てまでも獰猛に殺戮をくりかえす
限りなくつづく手足のつめの血の
跡、
の影まで

 


自傷的な行動を
支え、
なぞり、磔ではない
圧倒的に死者を見送る花火の影よ
都市が泣く
生きて別れる闇深く、分かるひとはわかる
肉親たちの骨をばらまく
影の影まで

 

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静かな驟雨〔現代詩)

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静かな驟雨

 

 

 かつてのあこがれが
色を失い、
声を失い、
歌にもならない風景の
塵の山を思い描く
肋骨あたりにぶらさがる
食い散らかした西瓜の種で
叱られた日が甦る空想のぬけがらか
ハンノキの幹にしがみついていた
仲間たち


甦るぬけがらの熱い庭にも
驟雨が通る
昼下がりは
胡瓜のような模型の舟に
こころの浮力の重さがかさなり
扁平足のはだしのまま
ありもしない無様な記憶を踏み散らかす
青空を乱読する
拠り所などなにもなかったが


かつて推理小説にのめり込み
昆虫針で停めていた怪しい幻影が
色を失い、
声を失い、
まぼろしのどぶろくの苦さに変わる
夢の団地に乱読の灯は消え
―老けてしまったなぁ、はあはあ息をはぜませ
仲間たちは
確実に迫り来る恐怖の予感に靡き
午後の蝉時雨とか云うらしい
耳に痛いどぶろく
頭から浴びている  屋台がある

 

空所〔現代詩)

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空所

 

住処を逐われた野の鳥は
孤の恐怖におびえ
記憶の淵で
天変地異と言う動機を
ひそかにねがう
朝は眠りの余白のなか
もう少しベッドの中でまどろんでいたい
口のないひとの言葉も、
母との日々のつながりのなかでだけ
無意味な優しさと
思いがけない凶暴性を秘めて
野末の果ての末路に惑う(…黄泉の入り口?
書くことは自分のためより
他者への幸せを願うことのほうが
遙かに多い理由などなにもない
野の鳥の囀りのような
古代人の悲鳴のかけらも
あの空に近い
立山のわずかな氷河の中に閉じこもる
言葉にならない幸運のかけらは
無音の時代の憧れを聴く

 

*少し前に書いた作品です。今度の詩集には加えようとおもっています。

よかったら、感想など聞かせていただくとうれしい。

詩 東雲草

腐りかけの
果実の甘さが
しのぎをけずった
時代わすれの
死の勝利を、
読む

 

明治の
ストライキ節は
名古屋旭新地での
東雲楼を廃業に追いこんだ
娼妓の唄と、
知る

 

熊本説をまたいで
江東区豊洲
東雲橋をわたると
まぼろしの
東雲飛行場の跡地に
至る

 

露地から露地へ
鉢植えが
ところせましと咲き乱れていた
あれが東雲草だったか
昭和二十年代の上野の風景が
行き過ぎて

 

追憶は
蔓に絡まって
メチルアルコール
命を売った祖父だ
さりとは辛いね、
新聞の中のある人物を針でぶすぶす刺している

 

二〇一〇年の、天高く
雲がわき立つその向こうを
午後が滑り墜ちていく
白と黒の淡彩画に
とけ込んでみえにくい東雲草の
不運な棚の角度

 

去年の目安を掘り返す
東雲草のそばに
文鳥を埋め、
そのそばに四十雀も埋めた
浅い地中には
蚯蚓一匹いなかった

 

(以上)かなり前の作品です。この作品の入っている詩集があるはずです。

「最も大切な無意味」ではないかと思います。

三年前になくなった友人が好きだと云ってほめてくれた作品なので印象深く心に残っていました。その詩集から写したもの