驚愕!透明なる幻影の言語をたずねてパート2

ことばの力をたずねながら、主に近・現代詩の旅にでたい~時には道を外れながら

非人称の夏

むろん死後にも悩みはつきまとう
渡し船などはみえず
幻の夏の砂浜で、誰かのよぶ声がするが
水先案内の超老人もみえず
現世にひきかえすわけにもいかない
(誰かが石の頭で釘を打つ…この世の別れに音も凍えていたか)
比喩のようにふりかえる
あなたに対するつよがりは
あの夏の終わりからはじまっていた
いわゆる運命的な無言の戦いを強いられて
駆けのぼる水の階段をふみはずし
激しく海面に叩きつけられる
(そうだ。いま、永劫にわたってだまされはじめるのだ)*
けれども、
奇妙に明るい死後の水府へいざなう
もうひとりのぼくを浸蝕する、日本海沿岸
非人称の波間で
風にゆれる縄梯子の罠にはみむきもせず
すべてを無意識のせいにして待つことにする
狡猾な現世に背をむけた
妙なる調べに涙をぬぐいながら
(哄笑の波に晒されていた…空想する時空の旅に終わりはない)

            

  *埴谷雄高『闇のなかの黒い馬』の「《私〉のいない夢」から引用。